コンピュータ
~AIの可能性
人間がプログラムを書く時代から、
AIと人間が一緒に考える時代へ
私は若い頃、コンピュータのプログラミングに携わっていた時期があります。
そして現在は、電気・水道・空調などの設備工事を仕事にしています。
一見するとまったく違う二つの仕事ですが、 最近AIを実際の仕事で使うようになり、 昔触れていたコンピュータと現在のAIが、 一本の線でつながっているように感じることがあります。
そしてその線をさらに未来へ延ばしてみると、 コンピュータはこの先どこまで進んでいくのだろう、 と考えるようになりました。
人間がコンピュータの言葉を覚えていた時代
私がプログラミングを学び始めた頃、 コンピュータを動かすためには、 人間がコンピュータの言葉を覚える必要がありました。
Cなどのプログラミング言語を使い、
「このデータを読み出して計算する」
「この結果をここへ格納する」
と、一つ一つ処理を書いていきます。
その後、仕事ではVB、Oracle、SQL、 ストアドプロシージャなどを使った クライアント・サーバー型の業務システムにも携わりました。
業務内容を理解するのは人間。 必要な処理を考えるのも人間。 それをコンピュータが理解できる命令へ変換するのも人間でした。
プログラミングそのものも変わってきた
コンピュータの発展とともに、 プログラミングの方法も変化しました。
機械に近い細かな命令を書く時代から、 より人間が理解しやすい高水準言語へ。
さらにライブラリやフレームワークなどが発達し、 以前なら大量のコードを書かなければならなかった処理も、 より簡単に実現できるようになりました。
命令を書く
システム化
扱いやすく
プログラムへ
関わる可能性
見て考える
働きかける
ところが生成AIの登場によって、 さらに大きな変化が起きました。
現在では、
と普通の言葉で説明すれば、 AIがプログラムを書くことができます。
コンピュータが人間の言葉を理解する時代へ。
「命令」から「目的」へ
そして私は、この先がさらに面白いと思っています。
これまでのコンピュータでは、人間が、
「次にBを調べる」
「条件がCならDを実行する」
という手順そのものを考えていました。
ところがAIがさらに進歩すれば、 人間が細かな手順を指定する必要さえ 少なくなるかもしれません。
AIは、その目的を達成する方法を考える。
何を調べる必要があるのか。 どのような方法があるのか。 どの順番で進めるのか。 途中で失敗したら何を変更するのか。
そうしたことをAI自身が考え、 目的を小さな問題へ分解しながら 進めていくようになる可能性があります。
AIがプログラミングを使うようになったら
AIがプログラムを書けるのであれば、 その能力は人間が使うソフトウェアを作ることだけに 使われるとは限りません。
AIそのものも、 巨大なソフトウェアと計算システムの上に 成り立っています。
ではAIに、
という目的を与えたら、 どうなるのでしょう。
RSI ― Recursive Self-Improvement
日本語では「再帰的自己改善」と呼ばれる考え方です。
もしこの循環が本格的に成立すれば、 AIの進歩の速度そのものが 変化する可能性があります。
もちろん現在のAIが、 勝手に自分自身を書き換えて 際限なく能力を高めている、 という意味ではありません。
だからこそ、能力向上だけではなく、 人間の意図から外れないこと、 間違ったときに止められること、 人間が管理できることなど、 安全性を基盤として考える必要があると思います。
では、そのAIが現実の世界を見るようになったら
ここで、私の現在の仕事である 設備工事へ話を戻してみます。
設備工事は、 図面だけを見て施工方法を決められる仕事ではありません。
たとえば天井裏へ新しい電線を通す場合。
図面を確認し、実際に現場へ行き、 脚立を立て、点検口を開けて天井裏を見ます。
そこには梁があります。 空調ダクトがあります。 給排水管があります。 既設の電線や配管があります。
図面では一本の線で簡単に描けても、 現実はそう簡単ではありません。
「こちらでも通せるが、後の作業が大変になる」
「少し遠回りしても、こちらから回した方が早い」
そこには、 これまで現場で積み重ねてきた経験が 大きく影響しています。
AIが一緒に天井裏を見る
将来、メガネ型端末などによって、 AIが人間と同じものを見ることが できるようになったらどうでしょう。
私は天井裏を見ている。
AIも同じ天井裏を見ている。
しかもAIは、その建物の図面、 仕様書、過去の打合せ、 変更履歴なども理解している。
「現場で一緒に考える相棒」に近い存在です。
離れた二人の作業者をAIがつなぐ
設備工事には、 一人がこちら側、 もう一人が向こう側にいて、 お互いの姿が見えない状態で 配線を確認することがあります。
ケーブルを引く
AIが両方を見る
動いた線を確認
「動いた?」
「もう一回!」
「これか?」
「それや!」
将来のAIなら、 両側の映像を同時に見ることが できるかもしれません。
一方で線を動かす。 もう一方のカメラ映像から AIが動きを検出する。
「この線です」
人間は二つの離れた場所を 同時に見ることはできません。
しかしAIなら、 複数のカメラから入ってくる情報を 一つの現場として同時に扱える可能性があります。
それでも、人間の方が速いことがある
しかし実際の現場を考えると、 本当にAIの方が速いのでしょうか。
経験のある人間なら、 必ずしも完全に確認できるまで 線を引いたり押したりしません。
線の方向。 太さ。 位置。 これまで見てきた経路。 そして一瞬の動き。
それらを見て、
と思ったところで少し引いてみる。
ピクッと動く。
それで確認を終えてしまいます。 そして、その判断が正解である場合が多いのです。
熟練した人間
過去の経験から候補を予測し、 わずかな追加情報で 「もう十分」と判断できる。
AI
大量の情報を比較・照合できる一方、 どこまで確認すれば十分なのかという 判断そのものを学ぶ必要がある。
熟練者は「どこまで確認すればよいか」を知っている
ここには、 職人の経験というものの 面白さがあると思います。
「ここまで分かれば、もう十分だ」と判断できることも経験です。
初心者なら、
「本当にこれでしょうか」
「もう一度確認しましょう」
となるところを、 経験者なら「これや」で終わらせる。
つまり経験によって短縮されているのは、 作業時間だけではありません。
ただし、何でも早く決めればよいわけではありません。
単に配線経路を調べるだけなら 「これだろう」で十分な場合があります。
しかし、
という判断なら話は別です。
電源確認、検電、回路確認など、 必要な安全確認を省略することはできません。
熟練者は、 「何を判断するのかによって、 どこまで確認する必要があるか」 まで経験的に判断しているのだと思います。
では、その「経験」をAIに蓄積できたらどうなるのか
私はここが非常に興味深いところだと思っています。
もしAIが職人と一緒に 何年も現場を見ることができたらどうでしょう。
AIは現場の状況だけでなく、 人間がどのように判断したかも記録する。
そして施工後に、 実際にその方法で問題なく施工できたという 結果まで残す。
これを一つの現場だけでなく、 何千、何万、何百万という事例について 蓄積したらどうなるでしょう。
「このような天井裏では、このルートは避けた方がよい」
「この程度の情報がそろえば追加確認をしなくても判断できる」
「ただし、この作業は危険度が高いため必ずもう一段階確認する」
そうした人間の経験則そのものを、 データとして蓄積できるかもしれません。
経験をデータベース化するということ
職人の経験は、 これまでその人の頭の中にありました。
長い年月をかけて身につけたものです。
そして、その人が仕事を辞めれば、 多くの経験も一緒に失われてしまいます。
もちろん後輩へ教えることはできます。
しかし、
「これはやめておいた方がいい」
という感覚まで、 すべて言葉にして伝えることは難しいものです。
もしAIが現場を見ながら、
を蓄積していけば、 それまで個人の頭の中にしか存在しなかった経験則を、 ある程度データとして残せる可能性があります。
そしてAIが、 新しい現場で過去の膨大な事例と照らし合わせる。
限りなく熟練した人間の判断へ近づいていくのかもしれません。
私は、そこにAIの非常に大きな可能性を感じます。
そしてフィジカルAIへ
さらにその先には、 AIがロボットなどの「身体」を持つ フィジカルAIがあります。
ただ、設備工事の現場は工場とは違います。
建物ごとに状況が違い、 図面通りになっていないこともあります。
予想していなかった梁や配管が 出てくることもあります。
だから私は、 人間がすぐ必要なくなるとは考えていません。
という非常に強力な組み合わせの時代が 先に来るのではないでしょうか。
人間がプログラムを書いた時代から、その先へ
振り返ってみると、不思議な流れです。
人間がコンピュータの言葉を覚える。
Cなどのプログラミング言語で コンピュータへ命令する。
VB、Oracle、SQLなどで 業務そのものをコンピュータ化する。
Pythonなどを使い、 さらに高度な処理を扱う。
生成AIが人間の言葉を理解し、 プログラムを書く。
人間が目的を伝え、 AIが方法を考える。
AIがプログラミング能力を使い、 AIそのものの研究・改良にも関わる。
そしてAIが人間と同じ現場を見て、 人間の判断と経験を学ぶ。
さらに膨大な人間の経験則を蓄積し、 新しい現場の判断へ生かす。
そしていつか、 フィジカルAIとして 現実世界そのものへ働きかける。
一人で現場へ行っても、 AIが図面も仕様書も過去の記録も理解している。
同じ天井裏を見ている。
そして自分一人では経験することのできない、 膨大な数の過去の現場経験まで持っている。
それでも最後には、人間が現場を見て、 「いや、今回はこっちで行こう」 と判断することもあるでしょう。
するとAIは、 その判断と結果をまた一つの経験として蓄積する。
もしかするとこれからやって来るのは、 どちらか一方がもう一方に取って代わる時代ではなく、 そんな時代なのかもしれません。
昔、プログラムを書いていた一人の人間として。
そして今、 設備工事の現場に立つ一人の職人として。
コンピュータとAIが この先どこまで進んでいくのか。
私は、その続きをとても楽しみにしています。