設備屋コラム|昔の技術と、これからの現場
給水管をトーチランプであぶり、熱を加えて曲げる。昔の設備屋にとっては、ごく当たり前のように行われていた仕事の一つです。
私の父も、長年その方法で配管をしてきました。今でも現場に出れば、昔から身につけた技術を、ごく自然に使おうとします。
できる技術と、使ってよい工法は違う
以前、下請けとして入った新築工事の現場で、父が管をあぶって曲げているところを監督さんに見つかったことがありました。
「こんな古いことをやっていたのではだめでしょう!」
注意を受けたのは、社長である私です。会社として施工に責任を持つ立場ですから、それは当然のことです。
父にしてみれば、長年やってきた方法であり、何も特別なことをしているつもりはなかったのでしょう。しかし、今の工事では、使用する管や継手の仕様、施工基準、品質保証などを守らなければなりません。
現在の配管工事では、さまざまな種類の継手が用意されています。それらを適切に組み合わせ、無理な加工をせず、配管をきれいに納めることが基本です。
継手を駆使し、機能性や安全性はもちろん、見た目にも美しく仕上げる。それこそが、今の時代の設備職人に求められる技術だと思います。
昔ながらの加工技術を持っていることと、それを日常の施工で使うことは別の話なのです。
技術としてできることと、現在の現場で採用してよい工法とは、必ずしも同じではないのです。
それでも、昔の技術を捨ててしまってよいのか
だからといって、あぶって加工する技術そのものに価値がないとは思いません。
今は専用の継手や工具があり、規定の施工方法で確実に配管するのが基本です。私自身も、通常の工事でわざわざ管をあぶって曲げようとは思いません。
しかし、あらゆる状況で、その方法がまったく役に立たないと言い切れるでしょうか。
例えば、大きな災害が起き、必要な継手がすぐには手に入らないとき。目の前には、水が使えず困っている家がある。そんな場面を考えます。
「継手がないから施工できません。しばらく我慢してください」
それだけで済ませられない緊急事態も、あるかもしれません。
緊急時だからこそ、判断が問われる
そんなとき、昔ながらの加工技術を知っていることが、応急対応の選択肢を広げる可能性があります。
ただし、管を加熱すれば何でも安全に使える、という話ではありません。 管種によっては加熱で強度や性能を損ないますし、飲用水の配管には衛生面や耐圧性、施工基準の問題もあります。
実際に応急処置をする場合も、管の材質、損傷状態、使用条件を確認し、安全性が確保できない方法は採用できません。必要に応じて止水や仮設給水など、別の方法を選ぶべきでしょう。
大切なのは、昔の工法を無条件に肯定することではなく、使うべきでない場面と、非常時に検討し得る場面を見極める判断力だと思うのです。
次の世代へ伝えたいこと
父は82歳になった今でも現場に出ています。昔のやり方を続けようとする姿には、正直、困らされることもあります。
一方で、長年の経験から得た知恵や手の感覚には、教わっておきたいことがたくさんあります。
これから若い職人が増えるなら、私が伝えたいのは「昔はこうやっていた」という技術だけではありません。
「この技術は知っておきなさい。ただし、普段の工事では安易に使ってはいけない。なぜ使わないのか、その理由まで理解しなさい」ということです。
技術を身につけているからこそ、あえて使わないという判断ができる。そして、本当に困った状況に直面したときには、知識と経験を総動員して、安全な方法を探す。
それもまた、設備屋の腕のうちではないでしょうか。
技術を残すことと、工法を守ること
昔の職人が積み重ねてきた技術には、学ぶべきものがあります。しかし、昔からやってきたというだけで、今の現場でも許されるわけではありません。
あぶって加工する腕は持っている。しかし、よほどの事情がない限り使わない。
その理由も含めて次の世代に伝えていくことが、私たちの役目なのだと思います。
関連動画|塩ビ管の加熱加工
昔ながらの加工方法に関する参考動画です。現在の給水配管工事でこの工法を推奨するものではありません。実際の施工では管材の仕様、施工基準、安全性を優先してください。